子供たちの未来を豊かにする「100年賃貸」の志

言葉に宿る「覚悟」

今年最後のBAMBOO総会では、横浜市にある小泉木材株式会社の代表、小泉社長には、新たに展開を始めた「賃貸住宅事業」についてお話いただきました。小泉社長が語ったのは、今の日本社会が抱える「住まいづくり」の矛盾を突きつけ、子どもたちの未来を本気で守ろうとする覚悟でした。 

横浜の子育て世代が直面する「1億円の壁」という現実

講演の冒頭、小泉社長が提示したデータは、今の横浜で暮らす私たちにとって非常に重く、切実なものでした。

現在、横浜という土地で自分たちの家を建て、子どもを健やかに育てようとすれば、土地代と建築費を合わせて1億円近い資金が必要になるというのです。かつての親世代であれば、経済成長の中で給料が上がり、郊外にマイホームを持つことが「人生のゴール」として機能していました。しかし、現代を生きる私たちにとって、1億円もの負債を背負い、35年ものローンに縛られることが、果たして本当の「豊かさ」に繋がるのでしょうか。

小泉社長は、この「家を所有しなければまともな子育て環境が手に入らない」という社会の前提条件に、真っ向から疑問を抱きます。

「所有しようとするから無理がある。所有しなくても、心豊かに暮らせる選択肢があれば、それでいいはずだ」

「賃貸だからこれで十分」という業界の常識への決別

小泉木材が賃貸事業への参入を決めた際、多くの住宅メーカーや専門業者が提案に来たそうです。しかし、その提案は一様に「賃貸ならこの程度の設備で十分ですよ」「コストを抑えて、大家さんの利益を最大化しましょう」というものばかりでした。

小泉社長はこれに猛烈な違和感を抱いたと言います。「子どもたちが育つ場所を、なぜ賃貸だからという理由で妥協しなければならないのか」と。むしろ、所有というリスクを負わない賃貸だからこそ、最高品質の住環境を提供し、住む人の人生の質を底上げすべきではないか。

こうして誕生したのが、日本エコハウス大賞でグランプリに輝いた「 Kizuki Terracehouse 桜台」です。この建物には、一般的なアパートの概念を覆す驚くべき性能が詰め込まれています。

冬暖かく、夏涼しい「魔法瓶」のような暮らし

詳しい数値を聞いても素人の私にはピンときませんでしたが、小泉社長の説明は明快でした。この家は、いわば「最高級の魔法瓶」のような構造をしているのです。

屋根や壁には通常では考えられないほど分厚い断熱材を入れ、窓には驚くほど高性能なドイツ製の木製サッシを使用しています。その結果、真冬でも暖房なしで室温が20度を下回らず、家中どこにいても温度差がない環境が実現します。これは単なる贅沢ではなく、住む人の健康を守り、光熱費という目に見えない固定費を劇的に下げるための「愛の設計」なのです。

「音」のストレスから解放する工夫

アパート暮らしで最もストレスになるのは、隣の部屋との「音」の問題ではないでしょうか。特に小さなお子さんがいる家庭では、「子どもが騒いで隣に迷惑をかけないか」と、お父さんやお母さんが常に神経を尖らせ、子どもを叱ってしまう。そんな光景が目に浮かびます。

小泉木材は、隣の部屋との壁をあえて「2重の柱」で作り、完全に隙間を空ける特殊な工法を採用しました。これにより、一戸建てと変わらない静寂が保たれます。「子どもがのびのびと走り回れる環境」を、賃貸という形で実現したのです。

浮いたお金を「子どもの未来」へ再分配する

講演で私が最も感銘を受けたのは、小泉社長が語った独自の投資哲学です。

この家には高性能な太陽光パネルが載っており、電気を自給自足できます。通常、こうした設備から得られる利益は大家さんの懐に入るものです。しかし、小泉社長はその経済的メリットをすべて、入居者である子育て家族に明け渡しています。

そして、小泉社長は入居されるご家族と必ず面談を行い、こう約束を交わすのです。

「この家で暮らすことで浮いた光熱費や生活費は、どうかお子さんの学びや体験のために使ってください。美味しいものを食べさせたり、旅行に連れて行ってあげたり、教育に充ててください」

小泉社長は、「この想いにピンとこない方には、申し訳ないけれどお貸しできない」とはっきり仰いました。その言葉には、利益よりも優先すべき「願い」が込められていました。

経営理念を「100年」継続させるための責任

小泉社長は現在、19歳になる息子さんと共に会社を経営されています。自身が3代目として家業を守ってきたからこそ、事業の「永続性」には並々ならぬ信念を持たれています。

「お客様に100年守ると約束した以上、会社が潰れることは許されない」

そのために、個人ではなくホールディングスという組織で土地と建物を所有し、銀行から50年という超長期の融資を引いて事業を組み立てています。自分がこの世を去った後も、小泉木材が建てた家に入居者が住み続け、メンテナンスが続き、子どもたちが元気に育っていく。そのための「仕組み」を整えることが、自分の最大の役割であると語る姿は、単なるビジネスマンというよりは、地域の未来を担うリーダーそのものでした。

また、小泉社長が大切にされている「社会IRR」という指標も印象的でした。投資したお金がいくら増えたかという表面的な数字ではなく、「この家で育った子どもたちが、どれだけ豊かな体験を受け取り、自尊心を育めたか」。その見えない価値を最大化することこそが、真の投資であるという哲学です。

地域の風景と「未来の記憶」をデザインする

「Kizuki Terracehouse 桜台」の敷地には、向かいにある小学校の桜並木に合わせるように、美しい「しだれ桜」が植えられています。

小泉社長は、この桜が満開になったとき、そこを登下校する子どもたちの笑顔が重なる風景を思い描いて設計したと言います。

「この家で育った子どもたちが大人になったとき、あの桜の下で過ごした豊かな日々を思い出してほしい。それを私たちは『未来の記憶』と呼んでいます」

その記憶は、いつか彼らが大人になったとき、自分たちの街や、自分たちの子どもへ、再び愛情を注ぐためのエネルギーになるはずです。

私たちにできること

この小泉木材の取り組みは、「所有」という重圧から人々を解放し、「賃貸」という軽やかな選択肢の中に、最高の品質と愛を詰め込む。小泉木材が蒔いた種は、今、確実に日本中で芽吹き始めています。

私たちは、住居を「単なる箱」として選ぶのではなく、「どのような人生を送りたいか」「子どもたちにどんな背中を見せたいか」という視点で選ぶべき時代に来ています。小泉社長の挑戦は、その大きな道標となるでしょう。

今回の講演を聴き、私自身、自分の暮らしや地域の未来について深く考えさせられました。小泉木材のような企業が地域に存在することの心強さを噛み締めると同時に、このような「三方良し」を超えた「未来良し」の取り組みが広がっていくことをこれからも願っています。

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