HISHIDA(菱田工務店)は2012年6月創業の長野県坂城町にある工務店です。
ヨーロッパの伝統的な木造建築様式を日本に合うようアレンジした家づくりが特徴で、木や土など地元の素材と、伝統的な工法を使用することにこだわった住宅づくりを行っています。
社長・大工・アーティスト 菱田昌平さんの独特のキャリア
社長の菱田昌平(ひしだ しょうへい)さんは、18歳の時に大工の道に入り、今でも現役として活躍中。
卓越した技術とセンスを持ち、”大工アーティスト・Shohei Hishida”として活動の幅を広げています。
菱田さんのキャリアはとても個性的。
中学に入学してまもなく不登校になり、フリースクールに通ったり、リンゴ農家のアルバイトで稼いだお金でアメリカのフリースクールを見学に行ったりという経験を通して、「自分で考えて生きていいんだ」と思うようになったといいます。
「大工」という仕事を選んだのは、建築業界は間口が広くて、学歴も関係ないから。何をやっているかはよく知らないけど、いろんな職業があるなかでも、「大工」という仕事は子どもから大人まで誰でも知っているところも「かっこいい」と感じたそう。
18歳のとき入った現場が分業制であることに違和感を持ち、19歳で60歳の親方に弟子入りして、今のベースとなる技術や仕事のやり方を身につけました。
その当時学んだのは、図面もなく、親方の頭のなかにあるものを手作業で形にしていくアナログな方法。
カンナ削りをはじめ、手道具や伝統技術の可能性を追求する職人さんたちの集まり「削ろう会」の活動にも参加するようになり、技術を高めていきました。
初めて図面というものを目にし、現場監督という役割があることを知ったのは、26歳で大手のハウスメーカーでの仕事を始めてからというのは驚きです。
その後も、修行時代に学んだ職人技や伝統的な手仕事に対しての思いは消えず、会社を作ったのも、伝統的な工法を続けていきたくてもそのための仕事がなく、ないなら自分で作るしかない、そのために経営が必要という考えからだったそう。
現在の建築業界はキャリアパスが決まっており、例えば設計をするひとは大学や専門学校に通って資格をとって……など、ある程度決まったルートでキャリアを積み重ねていくことになります。
しかし、菱田さんはアナログなやり方から大工の道に入ったこと、そして不登校をきっかけに身についた「自分で自分の道を作る」という生き方でキャリアを作ってきました。
それが唯一無二の個性を持つ現在の菱田さんの仕事につながっているのです。
菱田工務店として
20代後半は「削ろう会」の活動を通して、ドイツをはじめヨーロッパでも建築について学んだ菱田さん。
2012年に菱田工務店を創業し、培ってきた技術と思いを形にしていきました。
特に、ベルギーの古民家をベースにし、「ティンバーフレーム」というヨーロッパの伝統的な木造建築様式を菱田流にアレンジした家造りは、ほかのハウスメーカーとの差別化になり、こだわった家を作りたい人から人気を集めています。
ティンバーフレームの魅力は、ヨーロッパの職人の遊び心による可愛らしさ、懐かしいのに新しい感じがするところだと菱田さん。
先日、自分の作った家をベルギーの人に見せたところ、「ベルギーにもこんな家はない」と言われたそう。
ベルギーで学んだことに菱田さんのオリジナリティが加わり、独自のものに進化したということ。まさに菱田工務店にしかできない家づくりです。
「1.2億人を相手にするのではなく、80億人を相手にどう勝負していくか」
2023年に長野県の老舗企業・野村屋グループの一員となった菱田工務店。
次のステージについて聞いてみると……。
「1.2億人を相手にするのではなく、80億人を相手にどう勝負していくか」と言います。
日本は人口減少していき、住宅業界にとっては大打撃ですが、世界的に見ればまだまだ人口は増加中。長野は高原リゾートも多く、外国の人にも人気の地域で、別荘や移住用の家の需要もあります。また、海外での建築にも挑戦していきたいと考えています」
「菱田ブランド」で世界に勝負をしかけていきたいと、目を輝かせて語ってくださいました。
若手の育成とメッセージ
道なき道を切り拓き、自分に必要だと思ったことを学びながら、独自のキャリアを積み重ねてきた菱田さん。
はいはいを覚えた赤ん坊が、前に進むことそのものを楽しんでいるように、新しいことを学ぶことはそれ自体が楽しい! ということを、若手社員にも伝えたいと言います。
「学びは投資」と考えられる人を会社で育成し、現在住宅部門とアーティスト部門に分かれている菱田工務店の住宅部門を任せられるような人が誕生すればと考えています。
最後に、菱田さんに若い人へのメッセージを伺いました。
「日本では今精神的に病んでしまったり元気がない人も多いというけど、職人でうつ病になった人って聞いたことがない。頭だけを使いすぎると元気がなくなると思う。とりあえず手と体を動かそう! 手から何かを生み出すことから始まる。動物的な、人間的な生き方をするのがいい。そういう意味で、職人はいい職業だと思います」