「人生のベクトルを自ら変える力を養ってほしい」
米・ポートランドで、日本の中高生らの留学コーディネートする「US-J Connect」CEO・宮石具朗さんは、異文化体験の重要性を強調します。松下電器(現パナソニック)で人事を担当していた宮石さんは、2015年にUS-J Connectを設立し、多くの若者たちに海外での学びの場を提供してきました。
日本とは異なる文化や価値観に触れることで、新たな視点や考え方を育んでほしいと考えています。チャレンジするだけなく、自ら考えたり、失敗したりする経験が成長につながると考えているためです。現代社会は、かつてないほどの変革の中にあります。激しい変化を生き抜くために、これからの若者たちに必要な力とは何でしょうか。宮石さんにそのヒントを伺いました。
大手企業を退職 再スタートの場所はアメリカ
宮石さんは1994年に松下電器に入社し、約1400人が働く工場で人事を担当しました。当時はワークライフバランスという概念がほとんどなく、「24時間働けますか?」というCMが流れる時代でした。宮石さんは「猛烈に働き続けていました。目の前の仕事をこなすのに精いっぱいで、家庭は二の次でしたね」と振り返ります。業務は増え続け、大学時代に知り合った妻との離婚すらよぎるほどの生活だったといいます。
そんな時、「こんな働き方はおかしい」という妻から投げかけられた“That’s your choice!”宮石さんに生活を見直すきっかけを与えました。家族と話し合いを重ねた結果、妻の実家があるアメリカに移住することを決意します。30歳の時でした。
「何を始めたらいいかわからないし、英語も勉強しないといけない。不安しかありませんでした。日本を離れ、文化もコミュニケーションの方法も全く違う。息子はまだ3歳で、娘が生まれるタイミングでの決断でした。本当、ゼロからの……いえ、マイナスからのスタートでした」
2015年、US-J Connectを設立
それでも、宮石さんは「ゼロからのスタート」を経験したことで、課題解決に向けて自ら考えて行動することの大切さを再認識したといいます。日本とは異なる「適度な柔軟性」を持つアメリカの文化を体感し、「日本も型にはめすぎず、もっと選択肢を広げるような社会にしていくこと必要がある」と感じたといいます。この経験を若いうちから多くの人に味わってほしいと考えた宮石さんは、教育関係の日系アメリカ人経営の旅行会社での勤務経験を経て、2015年にUS-J Connectを設立しました。
【US-J Connectの主なプログラム】
•短期語学研修
中学生や高校生、大学生を対象にしたホームステイや語学研修などの体験プログラム。
•長期留学(1年間)/短期留学
ポートランドの私立高校に通学し、現地の学生と共に学び、生活することで、語学力だけでなく課題解決の能力を養います。
•社会人向けプロフェッショナル研修
教育者やビジネスパーソンなどを対象に、ポートランドの街づくりや都市開発に関する視察プログラムを提供。
成長の原点は挑戦と失敗にある
「留学では、それまで知らなかった異文化に触れることで、さまざまな困難や課題に直面します。そこでは、失敗することも少なくありません。ただ、学生たちは、その課題を自分で解決するポテンシャルを持っています。自ら行動して考えていくことで人間としての成長につながります」
宮石さんの教育に対する考え方の一つです。現地を訪れた高校生たちは、学校行事での発表やグループワークで失敗することもあります。しかし、その経験こそが成長につながると宮石さんは考えています。
「日本とアメリカでは問題解決の仕方が違います。例えば、チームで議論をして一つの結論を出すとき、日本では、周りを気にして意見を控えることが多いです。一方、アメリカでは、間違っていても意見を積極的に出します。こうした経験の積み重ねが人生の糧となります」
宮石さんは、若い人たちの挑戦をサポートするため、きめ細やかなフォローも欠かしません。ホストファミリーや現地校との連携を大切にし、学生一人ひとりに合った環境を整えています。また、日本の保護者に対しても定期的な情報提供を行い、安心して子どもを送り出せる環境を整えています。
コロナ禍を経験/これからの時代に必要なことは
宮石さんの「今」を支える経験があります。新型コロナウイルスの流行でした。パンデミックの影響で、US-J Connectの運営が一時的に難しくなった時期がありました。収入が減る中、宮石さんはホームセンターでのパートタイムや、日本でも有名なバーベキューソースの製造工場で働きながら生活を支えました。家族や地域の人ら周囲の支えを改めて実感するとともに、「どんなことからでも学びは得られる」と実感したといいます。
「パートタイムの経験を通して、『日本人でよかった』と思いました。日本人って真面目で何事も一生懸命。だからこそ、どんな状況でも学べるんです。七転び八起の精神を大切にしながら、これからも人と人をつないでいきたい。そして、よりよい社会をつくっていきたいです」
これからの社会を生きる若者たちへのメッセージ
「恥をかくということを恐れないでほしいです。自分を守ろうとするあまり、本来の自分をさらけ出せなくなることがあります。でも、できない自分を含めて受け入れることができたら、心が軽くなります。物事の本質を見ることが大切です。皆さんの周りには、失敗したとき、その現象だけを見て、蓋をしてしまう風土が残っていないでしょうか。一度立ち止まって、本質的な課題は何かを考えてみてください。そして、チャレンジしてみてください。きっと、人生のベクトルを変えられる力を持っているはずです」