T-styleとは、有限会社玉井工務店・株式会社TAD(ティーエーディー)・T-style Cafe Ciel (シエル)を合わせた総称であり、山口県下関市にあります。
今回は、この3つの施設が立ち並ぶ「T-styleの杜」という、まるで住宅地の中のオアシスのような素敵な場所を紹介させていただきます。
T-styleの主な事業内容は、建設業・飲食業・不動産業の3つから成り立っています。
今年で創業48年となる玉井工務店から数年前に切り離して別会社にしたのが株式会社TAD。この2社の代表である玉井清隆さんにお話を伺いました。
元々、玉井工務店は、玉井社長が先代のお父様から受け継いだときは、設計も施工も担っていました。あえて会社を2つに独立させた理由は、施工後のメンテナンスに対応できる地域を車で1時間圏内と決めたことがひとつ。設計は日本全国で自分の可能性を広げ、さまざまな建築を作ってみたいという社長の思いがひとつ。この2つの矛盾を解消するために会社を分けたそうです。
ただ、会社が分かれても設計と施工は切っても切り離せない関係なので、通常は設計と施工はセットで行っています。
無から有を生み出す面白さ
玉井社長が設計の魅力を感じたのは高校生の頃。
当時、新しく美術館を設計した時に初めて無から有を生み出す面白さを知ったと言います。
元々中学生の頃から建築の世界で生きていくことを決めていたという玉井社長。
しかし当時は、建築といってもお父様が行っている大工のことしか知らなかったそうです。そのため、進路は工務店就職。建築家と工務店の違いもよくわからないまま就職し、
最初は現場監督の仕事をしました。
図面は描くけれど、無から有を生み出すというようなものではなく、有るものをより良くしたり、おさまりを考えた施工図を描くばかりの日々。
「どうしてもやっぱり作りたかったんですよね。無から有を。」
この強い思いが今日の「T-styleの杜」に繋がっています。
「知らない」をそのままにしない
現在、母校の出前授業を担っているという玉井社長。自分が当時仕事内容を正しく知っていたら、高校卒業後すぐに建築家を目指しただろうという思いから、高校の1年生に対して、「今の時期から自分がやりたいことを意識した方がいい」というメッセージを伝える授業をしているそうです。
そのメッセージの内容は、1年生のタイミングで、本来自分がやりたいものが設計なのか、施工なのか、その中でも何がしたいのかをしっかりと意識した方がいいということです。
喜びを超えた感動を目指して
T-styleが建築をする上で大切にしていることは、お客様のご要望を超えた感動を提供すること。
喜んでいただけるものは、お客様のご要望を満たした時点で作れますが、
その喜びを超えた感動は、自分たちが想像してなかったその先にあるはず。
3年後、5年後、10年後の家族構成や趣味などを想像して、自分たちの経験を活かしお客様の要望を超えた提案をすることを心がけています。
見えない素材をデザインする
使う素材やこんな住み方をしたいという漠然とした要望をお客様からしっかり聞いた上で、「見えない素材」つまりは、光や風、土、水、熱などの五感で感じる素材をデザインすることは建築を作っていく上で大事な要素につながっていると玉井社長は考えています。
例えば、光や風。
心地よい光や風を家に取り込むのは建築でコントロールできることだと思っています。
また、木を1本植えることで風を感じることができるように、「風」という見えない素材を見えるようにし、それをどんなバランスで入れるかということを意識しています。
見えない素材を探りに行くには、季節や時間帯を変えて現地に何度も行く必要があり、時間がかかります。
会社の中や机の上では測れないその場所の力、環境の持つ魅力やエネルギーは、そこで自分が立って初めて感じられるもの。
「見えない素材で一番いいと思うのは、タダっていうことだったんですよ。みんな平等に与えられている素材だからこそ、それをどう扱うかが面白い。」と玉井社長。
生まれた瞬間からそこにあるから、その有り難みもわかりづらい。でも、そのあえてわかりづらいものを素材として提案することに面白みを感じています。
事務所にカフェを併設したわけ
「T-styleの杜」の中には、「T-style Cafe Ciel」という社屋棟に併設されたカフェがあります。このカフェを作った理由は、もともと自分たちが関わったお客様の居場所を作りたいというのが一番の理由だったそうです。
この場所が会社としてあるだけでは、T-styleで家を建てたお客様がなかなか顔を出しに来てくれないという現実がずっと続いていました。そこにカフェという要素があったらお客様が足を運びやすいのではないかという思いから誕生しました。
集客のために作ったのではなく、もう建築の仕事を終えたお客さんを対象にしたところが大事なポイント。楽しい時間がこれからも続く居場所づくり。これが長く続くカフェなのだと感じています。
カフェを併設した事務所をやってみて大きく変わったことといえば、1日に何回も「ありがとうございます」という感謝の気持ちを持てるようになったことだといいます。
カフェに来てくれた方に対して一人ずつ会いに行ってまでお礼は言えないけれど、部屋から「ありがとうございます」と頭を下げるその気持ち、これだけでも随分、玉井社長自身が変わったようです。
感謝の積み上げ
お父様から会社を受け継いだ時は、お客さんを大事にしているか、職員や仲間を大事にしているか、生きたお金を使っているか。この3つが軸にあったそうです。
その中で一緒に仕事をしている仲間に対しての感謝の気持ちは絶大だと言います。
「みんなに会うのが楽しいから仕事をやっているみたいなところがある。」と玉井社長。
「人生かけて転職しました!」という社員さんがいるほど、普段家族以上に長い時間を過ごしている仲間たち。これまで共に築いてこられた信頼関係や感謝の積み上げが、結果としてT -styleの仕事の質を高めているのだと感じました。
今後10年の展望
玉井社長は元請けの社長だけれど、協力業者があって今までずっと仕事ができていると考えています。
しかし今、建築業界で直面している課題は人手不足、職人不足。
元請け会社の売り上げが倍になっても協力業者の売り上げは変わってないというこの矛盾した関係性。
この現実を、協力業者の売上が上がれば、当然元請けの売上も上がっていく関係へと変えていきたい。
具体的には、協力業者を応援する会社を作りたいと思っています。そのためにもまず、完全週休2日制を実現するなど、協力業者の職人の労働環境を改善することが必要だと考えています。
職人を全国から募り、技術力を上げることで元請けと協力業者双方の良好な関係を築くことを4つ目の新しい事業として目指しています。
さらに5つ目の新しい事業として、不動産の会社を独立させ、もっと地域に居場所を作れる不動産と職人を育成する会社を作ること。
この5つの軸ができた時に、おそらくT-styleホールティングスという会社になる、というのが玉井社長の描く未来図です。
失敗してから考えればいい
最後に、これから何かに挑戦しようとしている人へ向けたメッセージを聞いてみました。
「失敗を恐れずにやってみること。うまくいくイメージを持って挑戦してみること。失敗したらどうしようということは、失敗してから考えればいい。
例えば、建築一つとっても、ジャンルが色々あり、古民家再生をしたり、リノベーションや新築、リフォームなど幅がいろいろありますよね。その中で建築の中でも自分がどういったものに心躍ってドキドキするのか、
これに関わりたいって、本能が動いてしまうような感覚を大事にしてほしいです。
BAMBOOは、そういったものに出会えるきっかけになるアプリだと思います。多分、こんなアプリは世界中探してもないんじゃないかな。」
若い頃から自分の足で一歩ずつ挑戦を重ねてきた玉井社長だからこそ語れる熱いお話を聞かせていただきました。